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2012年 03月 04日
Thesis proposal revised
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Proposalを書いたまではよいものの、果たしてどういった方向にプロジェクトを進めてゆくかが見通しが立たないまま悶々としていました。
前回はProposalを原文そのまま転載しただけだったので、自分の考えを整理するためにももう一度日本語で説明を書いておきます(書いているうちに考えがさらにアップデートされてきました)。



- 分節 -


Smart/Dumbというテーマを与えられて最初に着目したのが、テクノロジーと建築それぞれのArticulation(分節)に対する姿勢の違いでした。
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携帯電話がスマートフォンへ発展してゆく過程で、まずアンテナが本体に埋め込まれ、さらにはボタンという基本的な要素までディスプレイに吸収されていった事からも分かるように、テクノロジーはその発展とともに要素のアーティキュレーション(分節)を消失、または再定義してきたと言えるでしょう。それに対して建築は愚直(Dumb)にもスラブ、柱、壁といったワンパターンの分節に固執し、硬直したままです。
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さらにはコルビュジエのドミノのドローイングが壁を描写せずに床を露出させているように(もちろん戦後の仮設住宅として住民が自ら瓦礫を使って壁を作るというコンセプトもあるのですが)、モダニズム以降、分節された要素の中でもスラブがもっとも基本的な要素として位置づけられそれを頂点としたヒエラルキーが固定化されてきたのではないでしょうか。そしてそれは資本主義によってオーバードライブされ、建築の価値は主に延べ床面積によって決定されるようになった訳です。もちろんコールハースの”錯乱のニューヨーク”にもあるように、このスラブを基本とした建築における要素の分節システムは敷地の単純上方拡大というルールを産み出し、それがオーバードライブされたからこそマンハッタニズムが生まれた訳でもあるのですが、もはやこのシステムは建築的に疲弊してしまった事は”錯乱のニューヨーク”の巻末で述べられているのを引き合いに出さずとも中国のバブルや日本における大規模再開発の状況を見れば明かでしょう。しかし資本主義にとってはまだ有効なシステムであるからこそ未だにスラブが単純に任意のn枚積層されたビルが建ち続けている事は否定出来ない筈です。
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ではどのようにして建築のアーティキュレーション、ヒエラルキーを変えてゆけるのか?ここで着目したのがタイムズスクエアです。



- Times Squareにおける水平と垂直の価値反転 -


まずタイムズスクエアについてその歴史を少し解説しておきます。
Times Squareという名前自体は7th Ave.とBroadwayが交わる角地にNY Timesの本社があった事に由来しています。戦前は42th St.を中心としてシアターが立ち並ぶ繁華街として栄えていて、当時からきらびやかなネオンサインで埋め尽くされていました(コルビュジエはTimes Squareを訪れた時の感想を”When cathedrals were white”においてそれを陳腐で安っぽいと批判しながらもその魅力に惹かれています)。戦後はシアターの衰退とともにセックスショップなどが進出し、いかがわしいエリアとして悪名が上がるのですが、1990年代に市が大規模な再開発を計画します。この再開発で中心的な役割を果たしたのがディズニーでした。ディズニーが再開発に関わってくる事で、性風俗関係の店舗は徹底的に締め出され、全てが青少年の為にクリーンなイメージを持ったものへと”Disneyfied”され、タイムズスクエアが持っていた妖しい魅力が無くなってしまった訳です(このあたりの議論はChristine Boyer “X Marks the Spot: Times Square Dead or Alive?”に詳しい。コールハースも”Grand Street 57”に再開発についてのエッセーを書いています)。
とまれ、タイムズスクエアはグローバル資本主義によって完全に征服され、エリア内の建物の外装はコカコーラ、ダンキンドーナッツ、ヒュンダイ、新華社通信と種々の大企業の広告が埋め尽くし、それがタイムズスクエアの最も重要なアイデンティティ(現にここでは広告”規制”の逆で、建物の外皮の一定以上の割合を広告にあてるというルールがあるほど)、そしてグローバルキャピタリズムの一つの象徴となっている訳です。
ここで興味深いのが、タイムズスクエアにおける屋外広告のリース費の高さ。タイムズスクエアにおける屋外広告のリース費用は月あたりのスクエアフィート単価が$70 ~ $130なのですが、マンハッタンにおけるオフィススペースの家賃が月あたりのスクエアフィート単価$54の1.5~3倍近い額なのです。つまり、ここでは床とファサードの価値が反転している訳です。



- 双子 -


ここで興味深いのが、7th Ave.とBroadwayの交わる二つの角地に建つOne Times SquareとTwo Times Squareです。タイムズスクエアで向かい合うようにして建つこの二つのビルはフットプリントもフロア数もほぼ同じ、双子のような存在なのですが、その性格は正反対であると言えるでしょう。
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One Times Squareは元はNY Times本社ビルとして建設されたものの、そのメインオフィス機能は1904年から10年もしない内に他の場所に移り、戦後はビルのオーナーが変わりオリジナルのクラシカルなファサードは引き剥がされ、コンクリートパネルで覆われた簡素なものになり、名前もOne Times Squareに変更され、現在はビルのファサード全面を覆い尽くすように種々の広告が貼付けられています。
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壁面は広告によって埋め尽くされているため当然ながら窓を設ける事が出来ず、テナントは現在地上3フロアのみに店舗が入居していて残り23フロアは全くの空室という状況なのですが、先に述べたようにファサードのリース費の方が高いタイムズスクエアにおいては広告スペースのリースによる収入の方が全フロアにテナントが入居するよりも収入が得られるため、中身が全く詰まっていなくともビルとして成立してしまうのです。
一方のTwo Times Squareはホテルがすべてのフロアを埋めているのですが、このためファサードのごく一部分しか広告スペースとして利用可能でないのです。
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資本主義を究極的に表象しているタイムズスクエアという場において、資本主義によって加速された、スラブを頂点としたヒエラルキーを持った現在の建築のシステムが立ち行かなくなっている事をこの二つの建物のジレンマ(広告で覆ってプログラムをあきらめるか、プログラムを入れて広告をあきらめるか)は顕しているといえます。



- Being an Ultra Captalist -


ここから具体的にどうThesisを進めてゆくかという事に移る訳ですが、先述したタイムズスクエアにおける水平面と垂直面の価値関係の反転という状況に対して、徹底して資本主義的になって設計する、という戦略を取っています。つまり、今の建築が最も価値のあるフロアを如何にして最大に出来るかという事を目標としているならば、フロアよりも広告スペースとしてのファサードの方が価値のあるこの場所で、広告スペースを如何にして最大に出来るかという目標を元に設計を進めてゆけば今までとは全く違った建築のタイポロジーが生まれるのではないか?そしてある意味それが回り回って資本主義批判にならないか?という仮説を立て、設計を進めています。


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で、このあたりが今の状態。
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既存のヴォリュームをsubdivideしてゆくことによって広告スペースを増やしてゆくのですが、広告というのは当然見られる事に意味がある訳で、広告のスペースの増加=パブリックスペースの増加という等式が成立するのですが、ならば建築内部にもstreetを取り込んでゆけないかと考えたり(ある意味卒計で考えていた事に繋がってきたり)、また広告と視点の距離と広告のピクセルのサイズの関係(遠ければピクセルは粗く、近ければ細かく)を詰めてゆくと広告以外の部分の決定に影響しないかなどと、色々ぐちゃぐちゃ考えています。
あと今回は特定のプログラムをまったく決めずに進めています。今まで自分はプログラムを最初に決めてそのプログラムをどうおさめるかという事を軸に設計を進めることしかしてこなかったのでこれに関してはかなり不安なのですが、そもそもプログラムを設定するとフロアをベースに考えるようになってしまうのではないかと考えて、敢えてやっています。

まだまだ先は長い(とはいっても提出まであと3ヶ月もない)ですが、なんとなく今までとは全く違ったアプローチを試しているという感覚があります。Midterm Reviewまではあと一週間半、粘り強くいこうと思います。

何かアドヴァイス等あればお気軽にコメント下さい。


by hirano-eureka | 2012-03-04 15:29 | 修士設計


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