2012年 03月 04日
前回はProposalを原文そのまま転載しただけだったので、自分の考えを整理するためにももう一度日本語で説明を書いておきます(書いているうちに考えがさらにアップデートされてきました)。 Smart/Dumbというテーマを与えられて最初に着目したのが、テクノロジーと建築それぞれのArticulation(分節)に対する姿勢の違いでした。 まずタイムズスクエアについてその歴史を少し解説しておきます。 Times Squareという名前自体は7th Ave.とBroadwayが交わる角地にNY Timesの本社があった事に由来しています。戦前は42th St.を中心としてシアターが立ち並ぶ繁華街として栄えていて、当時からきらびやかなネオンサインで埋め尽くされていました(コルビュジエはTimes Squareを訪れた時の感想を”When cathedrals were white”においてそれを陳腐で安っぽいと批判しながらもその魅力に惹かれています)。戦後はシアターの衰退とともにセックスショップなどが進出し、いかがわしいエリアとして悪名が上がるのですが、1990年代に市が大規模な再開発を計画します。この再開発で中心的な役割を果たしたのがディズニーでした。ディズニーが再開発に関わってくる事で、性風俗関係の店舗は徹底的に締め出され、全てが青少年の為にクリーンなイメージを持ったものへと”Disneyfied”され、タイムズスクエアが持っていた妖しい魅力が無くなってしまった訳です(このあたりの議論はChristine Boyer “X Marks the Spot: Times Square Dead or Alive?”に詳しい。コールハースも”Grand Street 57”に再開発についてのエッセーを書いています)。 とまれ、タイムズスクエアはグローバル資本主義によって完全に征服され、エリア内の建物の外装はコカコーラ、ダンキンドーナッツ、ヒュンダイ、新華社通信と種々の大企業の広告が埋め尽くし、それがタイムズスクエアの最も重要なアイデンティティ(現にここでは広告”規制”の逆で、建物の外皮の一定以上の割合を広告にあてるというルールがあるほど)、そしてグローバルキャピタリズムの一つの象徴となっている訳です。 ここで興味深いのが、タイムズスクエアにおける屋外広告のリース費の高さ。タイムズスクエアにおける屋外広告のリース費用は月あたりのスクエアフィート単価が$70 ~ $130なのですが、マンハッタンにおけるオフィススペースの家賃が月あたりのスクエアフィート単価$54の1.5~3倍近い額なのです。つまり、ここでは床とファサードの価値が反転している訳です。 ここで興味深いのが、7th Ave.とBroadwayの交わる二つの角地に建つOne Times SquareとTwo Times Squareです。タイムズスクエアで向かい合うようにして建つこの二つのビルはフットプリントもフロア数もほぼ同じ、双子のような存在なのですが、その性格は正反対であると言えるでしょう。 一方のTwo Times Squareはホテルがすべてのフロアを埋めているのですが、このためファサードのごく一部分しか広告スペースとして利用可能でないのです。 ここから具体的にどうThesisを進めてゆくかという事に移る訳ですが、先述したタイムズスクエアにおける水平面と垂直面の価値関係の反転という状況に対して、徹底して資本主義的になって設計する、という戦略を取っています。つまり、今の建築が最も価値のあるフロアを如何にして最大に出来るかという事を目標としているならば、フロアよりも広告スペースとしてのファサードの方が価値のあるこの場所で、広告スペースを如何にして最大に出来るかという目標を元に設計を進めてゆけば今までとは全く違った建築のタイポロジーが生まれるのではないか?そしてある意味それが回り回って資本主義批判にならないか?という仮説を立て、設計を進めています。 あと今回は特定のプログラムをまったく決めずに進めています。今まで自分はプログラムを最初に決めてそのプログラムをどうおさめるかという事を軸に設計を進めることしかしてこなかったのでこれに関してはかなり不安なのですが、そもそもプログラムを設定するとフロアをベースに考えるようになってしまうのではないかと考えて、敢えてやっています。 まだまだ先は長い(とはいっても提出まであと3ヶ月もない)ですが、なんとなく今までとは全く違ったアプローチを試しているという感覚があります。Midterm Reviewまではあと一週間半、粘り強くいこうと思います。 何かアドヴァイス等あればお気軽にコメント下さい。
by hirano-eureka
| 2012-03-04 15:29
| 修士設計
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平野 利樹
とうとう学生卒業、と思いきや。 2004 - 2009 京都大学建築学科高松伸研究室 2010 - 2012 Princeton University SOA Master of Architecture 2012 - 2013 Reiser + Umemoto 2013 - 東京大学建築学専攻隈研吾研究室 博士課程 Web : toshiki-hirano.com Portfolio : issuu Mail : info@toshiki-hirano.com カテゴリ
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